5ヶ月ぶりの13区高架下のブロカント。この日も寒かった、いよいよ本格的な冬である。
紙ものディーラーDのスタンドで、グラフィックデザインの本を2冊買った。
最初に見つけたのはCrous-Vidalというデザイナーの『Doctrine & Action』という白い本。
Crous-Vidalは1908年スペイン生まれのグラフィックデザイナーで、本名をEnric Crous-Vidalという。
スペインの内戦を逃れ、1939年にフランスへ移住。1954年にはフランスタイポグラフィー鋳造所のアート・ディレクターに就任している。
1950年代といえば、タイポグラフィー・デザイン界が圧倒的に「スイス・デザイン派」に流れていた時代。Crous-Vidalは親しい友人であったレイモン・サヴィニャックの構想に賛同し、クールでニュートラルなスイス派とはほぼ真逆を行く「ラテン・デザイン派」を名乗って、独特の文字デザインを世に送り出した。
Crous-Vidalの名前こそ知らなかったものの、文字を見たらピンと来た、古いポスターでよく見るスタイルだ。
時計のJAZや飲料水ペリエの仕事もしている。
見ているだけで楽しくなってくる、包装紙のデザイン。
ちょうど66年前、1954年1月25日に4000部限定発行のうちの、908番目だ。
この本に夢中で魅入っていると女性が1人近づいてきて、この本の下にあった分厚い黒い本を手に取った。どうやら同じ系統の本らしい、しまった、気づかなかった。
彼女は私が来る少し前にもう1冊別の本を買っていて、残りの2冊も買おうかと思い直して戻ってきたと言う。私はそのとき手に持っていた白い本は買うつもりだったので、譲らない。折しもファッションウィーク中で、明らかにその筋のバイヤーっぽい雰囲気だ。
私が白い本を諦める様子がなかったので、彼女はもう1冊の黒い本も買わずに、元の場所に置いた。私はすかさずそれを手に取り、2冊をまとめて買ったのだった。
2冊目はその名も「Caractère(文字)」。こんなの、文字狂いの私が買わないわけがない。表紙を見ただけで買う。
印刷業界の月刊誌で、これは1952年12月特別号(だから特に分厚いのかも)。表紙が黒のビロード。
こんなすごいレリーフ加工から始まり、紙見本と文字見本、印刷見本の集大成。
あれ、何かはさまっている…
…なんと、さっきの白い方の本の著者であるデザイナー、Crous-Vidalの名刺である!デザイナー本人または仕事相手が、何かの目印にはさんだんだろうな、すごいものを買ってしまった。
Monotype社の工房が文字を鋳造する様子を追った見開きもある。とにかく、全部のページが超楽しい。ああ買えてよかった!
つづいてヴィンテージ服ディーラーLのところへ。端から順番に見ていくと、初めて見るワンピースがある。
モノトーンの大きなチェック柄で、生地がめちゃくちゃ上等なのが触ってすぐにわかる(ウーステッドだよ)… タグを見ると、Courrègesだ。
この、いかにも1980年代後期というデザイン。ワンピースとしても、被りのアウターとしても着られる。
脇に2ヶ所ベルト穴が空いているものの、(おそらく共布の)ベルトは残念ながら消失している。
でも、太めの革のベルトで無造作にギュッと絞って着たらなんとかっこいいことか、想像しただけで倒れそうになり、現金を下ろしに走った。
薄い小さなシミが数ヶ所にあったのは、3日ほどかけてていねいに取った。
袖口のボタンも1個欠けていたので、モンマルトルの手芸屋で似た質感とサイズのものを探し、両袖分ともつけ替えた。ウール専用洗剤で手洗いして、丸1日干して乾かした。
アイロンがけの際に、袖から不思議なレンガ色の粉が大量に出る。
なんだろうと思って裏返して調べたらおそらく、裏地と表地の間に仕込まれたパッドの中身の素材が、分解して粉になったようだ(ネット地の三角形の袋状の物体だけが空っぽで残っていたので外した)。昔の合成繊維って品質がまだ不安定だったんだろうな、こういう現象はたまに見る。
同じくLのところで、1980年代のシルクのシャツ。これはボタンを背中側に回して、後ろ前で着たい。
無地のシルクシャツもいいけれど、こういうクレイジーな柄のも欲しかったのだ。
Lが「ソニア・ドローネー」風でしょ、と言っていた。たしかにそんな色彩だ。
1番上のボタンホールが裂けていたので、それだけ修理した。自己流の修理の腕が、だいぶ上がってきた気がする。
最後に、端っこのスタンドのガラクタだらけのテーブルで、ヨーグルト容器を見つけた。側面にロゴが入っていないタイプは初めて見る。
HBCM窯のもので、ファイアンス焼きなので1930年代あたりかな。バスク模様のBéarnシリーズと同じ時代だと思う。このころってたしか、薬局でヨーグルトを売っていたんじゃなかったか。