1867年のパリの地図

昨年の12月のこと。

4区の小さな書店のショーウィンドーに惹きつけられ、ガラスごしに店内をのぞくと、古い印刷物がところせましと展示されている。
これは入店をためらっている場合ではない、と扉を開ける。

店内ではParis universel, d’une Expo à l’autreと題された企画展示の開催中だった。

19世紀後半に開催された5回のパリ万国博覧会にまつわるポスター、書籍、写真、地図、万博ガイド本、新聞、版画、技術書、芳名帳、土産品などが展示販売されている。

展示品はすべて、店主である若い女性自身の蒐集品だという。
彼女の膨大なコレクションにはとうてい及ばないものの、私もパリ万国博関連の品物をコツコツ集めていることを話すと、すぐにうちとけて話が弾んだ。

仕事の打ち合わせに行く途中だったので実はあまり時間がなく、とりあえずカタログ(6ユーロ)を買って「2時間後に来ます!」と言って退店。このカタログがまた良くできていて、各展示物の写真と解説がギッシリ詰まった48ページ、読み物としても楽しい。

予告通りに書店を再訪したころには、日が暮れてすっかり暗くなっていた。

万国博会場の俯瞰図が描かれたチャーミングな扇を買うか、それとも地図を買うか、悩みに悩む。

最終的にはパリの地図を選んだ(予算があれば扇も欲しかった。もう、店まるごと全部が欲しかった)。

アルミ枠の額から出さない方が地図が傷まないだろうとのことで、額ごとエアパッキンで軽く包んでもらう。予期せず大きな額を抱えて、混んだメトロに乗る。

(アクリル板の反射が激しくて正面から撮影できない)

Champs de Marsにエッフェル塔はまだなくて、代わりに巨大な楕円形の建物がある。ここが1867年のパリ万国博会場だった。

Les Hallesは何度目かの大規模な新改築工事中(1852年から1870年)。

ガルニエのオペラ座は前年に完成しているはずなのだが、なぜか地図上にはなく(オペラ大通りもない)、右上の余白に「新オペラ座」の宣伝イラストが描かれている。

ビュット・ショーモン公園はできたてホヤホヤ。
モンマルトルのシンボルであるサクレクール寺院は、まだない。

パリの外周近くにある黒くて長いミミズのようなものは、1855年から運行していたトラムウェイ。記号ではなくて、あえて列車の写実的なイラストというのがいい。こんな楽しそうな列車の絵を見たら、乗ってみたくなる。

当時のガイド本の中の1冊(公式ガイドというものはなく、出版社やデパートがそれぞれに、分厚くて詳細なガイド本を編集出版していた)に描かれた、会場の様子。自然光をなるだけ多く透過させるように工夫された構造なのがわかる。

52200の出展者を擁する、146000平方メートルの楕円形会場。

セーヌ川に浮かぶ船のサイズと比較すると、その巨大さが強調される。

ガイド本の中には、こんなイラストも。
1849年(左)と1867年(右)で、こんなに近代化しましたよ、という比較だ。
産業革命のおかげで、さびれた農村が立派なインフラを備えた町に生まれ変わった、という自負らしい。

グラン・パレとプチ・パレは未建造で、それらの間にあるはずの道も、アレクサンドル三世橋もない点は、昨年末に買った1880年の地図と同じ。

現在の地図と比べると、セーヌの河岸がスカスカである。