Le Chat Noirのハガキとブローチ

1881年創業の有名キャバレー、Le Chat noir(ル・シャ・ノワール)関連の古い品々を、誕生日に夫がプレゼントしてくれた。

私が想像もしない方面のツボをビシッと突くものを探してくれるので、彼の観察力には毎回脱帽する。

3点のオブジェをうまくまとめようと、黒い画用紙でケースを自作したらしい。
なかなかやるな!

「キャバレー黒猫」と言えばこのポスター、近年ではパリの土産品店の看板がわりである。モンマルトルを訪れた経験のない人でさえ、この黒猫の絵にはパリらしさを感じるという。

Le Chat noirは2度も引っ越している。
このハガキに写るのは、最後の住所となったClichy大通り68番地(今では同名のレストランが店を構えるものの、当時の趣きはカケラもない)。

この同じ角度からの写真(Wikipediaより)が1929年の撮影である事実を参考に、もらったハガキの細部を観察してみる。

建物3階と4階の間に掲げられた看板「CAVEAU DU CHAT NOIR」の書体はアール・ヌーヴォー風。

2階と3階の間にある小さな看板「CHAT NOIR」の文字は、特徴ある「R」の直線的な足部分から、ドイツで1896年誕生のサンセリフ書体、Akzidenz Groteskの派生では。

向かって右隣の看板で笑う月が、メリエスの映像作品「月世界旅行(1902年)」の影響を受けたように思われる。

オフセット印刷の前身、Phototypie(フォトティピー)手法で作られた9 x 14 cmサイズのハガキが広く流通したのは、1900-20年頃。

裏面の「CARTE POSTALE」の文字が、1901年にアメリカで生まれたCopperplate(Macのフォントにも入っている)である。

そして創業者Rodolphe Salis逝去(1897年)後、Jehan Chargotによりクリシー大通りでの営業再開されたのが1907年との情報から、このハガキに写るのは、1910年ごろの様子ではないかと。

さらに興味深いのは、入り口の屋根の下に見える「ICY ON CHANTE(「ここは歌う所」)」という文字。

IciではなくIcy、yを使うこんな書き方を見るのは初めてだ。
どうやら、16世紀頃まで使われていた、古いフランス語らしい。
店主が好んで古風なつづり方を選んだのか、それともこれが流行りだったのか。

2枚目のハガキはキャバレー室内の様子。
女性のドレスや帽子のデザインから、1915年頃の撮影と思われる。

キャバレーのトレードマークである黒猫のブローチは、オークションで見つけたらしい。こんなグッズが当時、土産物として売られていたのか、もしくは秘密クラブの会員証みたいなものだったのか。

これは猫好きの古物好きにはたまらない。うっかり落とすのが怖くて、着けて出かけるのに勇気がいるよ。

昼にはオムレツを作ってもらった。