パリ5区(Av. des Gobelins)のブロカント | 2025/02 その1

どうやら1年半以上ぶりの訪問らしい、5区のブロカント。メトロCensier-Daubenton駅からLes Gobelins駅まで、テントの白い三角屋根が連なるのが見える。

Censier-Daubenton駅の方から歩き始めてすぐ、大きなボトルを発見。

Laiterie parisienne(パリ乳製品工場)のマークが入ったカラフルな牛乳瓶。必要以上にカクカクした書体が最高だ。

おおらかで質実剛健なデザインからみなぎる、飲めばみるみる丈夫な体が作られていくイメージ。

この瓶に入った新鮮な牛乳が毎朝、玄関前に配達されていたのだろう。売主の男性は1950年代の品物だと言っていたけれど、ロゴマークのデザインは1930年代までには存在していたのではないかな。

裏側の広告面にはLipton紅茶。書体は1930年代から第二次世界大戦後まで人気を博したFuturaだ。思わずミルクティーが欲しくなる、マーケテイングの王道をいく広告主チョイスである。

このLatterie parisienneはパリのどこにあったんだろうと調べてみたら、4区のSaint-Paul通り9番地の写真が見つかった(他の地区にもたくさんあったはずだが)。

“Laiterie parisienne, 9 rue Saint-Paul, Paris (IVème arr.)”. Photographie d’Albert Cayeux. Tirage au gélatinobromure d’argent. Entre 1941 et 1943. Paris, musée Carnavalet. CC0 Paris Musées / Musée Carnavalet – Histoire de Paris

こんな割れやすい素材のものが、70年以上も無傷でいたことに驚く。中まで徹底的に洗ったので、水を入れてピッチャーとして使おうかな。


紙ものディーラーDはいつものところにいた。スタンド内に入ってすぐ、左側の壁に立て掛けられた古いポスターが目に入った。

ルーアン議会からのお触れ書きポスター、なんと1765年の印刷。両端ぞろえの本文の文字組みが均一で、ムラがなく、上品ですばらしい。

内容は超ざっくり言うと、「主君大司教の権限下にあるカトリック大聖堂のお墨付きのない学校からは、罰として教科書とか学校の道具とかを没収してクータンス町の病院への寄付金にしてしまうよ」といった感じである。「Arrêt」は当時は「Arrest」と書かれていた。「ê」は元は「es」、「ô」は元は「os」(例えば、HôtelはHostelだった)。

フランス革命の四半世紀ほど前なので、バリバリの絶対王政でカトリックなセンスで作られている。8行ぶち抜きのイニシャル・レターはLouisのLで、「ルイ国王陛下が…」のファンファーレ的な文章で始まる。しかも部分的なスモール・キャピタル使いで、崇高さ厳格さの演出にも抜かりなし。

「f」かと思ったら「s」だった文字がある。「f」とまったく同じ縦線ボディーに、左側だけちょこんと横棒をあしらったデザインが「s」だなんて、ややこしいわ!

しかも単語の語尾の「s」は現代の「s」と同じ形で、語頭と語中だと背の高い「fに左横棒」タイプを使うという二刀流。こんな細かいルール、活版を組む人も大変だったろう。

帰宅して額から取り出して、裏面の浮き彫りの美しさに歓喜。

活版印刷は表も裏も楽しめていいなあ。

さて、撮影も終えたことだし、折り目どおりに畳んで保管しようと思ったら、

流麗な筆記体の手書き文字が現れた!(右下のだけボールペンぽいので現代の書き文字)

こういうのを見ると、筆記体アルファベットって美しいなあと思う。

前の持ち主が額の中でソフト粘着剤「ひっつき虫」を使ってポスターを留めていたせいで、中央に2ヶ所ある大きな茶色いシミが悲しいけれど、糊とかセロテープでべったり貼られるよりはマシかな。よくぞ260年も生き残ってくれた!