約1年ぶりの、イタリー大通り沿いのブロカント。
パラリンピック真っ最中なのに、パリ市内でブロカント開催許可が下りたことに驚いた。オリンピックが完全に終わる9月半ばまで路上イベントは全面禁止って聞いていたんだけど、気が変わったんだろうか。
しかし、まったく同じ通り沿いは久しぶりとは言え、最近のブロカントは13区ばっかりである。駅前のショッピングモールに巨大なIKEAがオープンすることを、この時ついでに知る。
Gの軍ものスタンドを見つけて近寄った。そうしたら、何年もずっとスタンドで働いていたHが、夏の間にこの世を去ってしまったという。ここ数ヶ月は病気で痩せ細っていたので心配していたのだけれど、とうとう会えなくなってしまった… 最後に会ったのは7月か、それとも6月だったか。いつも穏やかでニコニコしていて、「スリに気をつけるんだよ」と私のことを気づかってくれていた。最期はちゃんと家族に会えたんだろうか。
乾いた胃に錆びた錘が投げ込まれたようなこの感情、ひさしぶりにずしんと響く。
さて、やや重い足取りで別のスタンドもいちおう見ておく。
雑誌と画集などの大判本が並べられたスタンドで、いくつか選んで購入した。
最初に見つけたのは、マーク・ロスコの画集。1970年6月から10月までヴェネツィアで開催された展覧会のものだ。画家は同じ年の2月に亡くなっている。もともと計画されていた展覧会なのか、急遽決定した回顧展なのか、まだ本文をちゃんと読んでいないので不明(イタリア語だし)。
明るいグレーの紙には文字だけが活版印刷されていて、絵画の部分は艶の強い別紙に印刷したものを貼り付けてある。少し前にパリで観たばかりなので記憶に新しいが、実物から受けた印象とかなり近い印刷だと思った(ちなみにパリの展覧会場で売られていた画集の色出しはまったくひどいものだったので、ちっとも購買意欲がわかななかった)。この様式の製本は、日本の昔の画集でも見たことがある。
ロスコの次に見つけたのは、洋服のラベル見本帳(集合写真の右上)。
実際の製品見本が貼り付けられている。1991年春夏用のコレクションだ。
これが他の本よりも高かった、何より分厚いし重いし。
こうしてあれよあれよと両手が塞がっていく。この時点で7冊ほど抱えて物色していたら、見覚えのある本が現れた。
「グラフィック デザイン」の33号(1969年春)!
で、この雑誌内に色々切り抜き資料が挟まっている。ロスコの画集と同じ筆跡のメモも… ここで、おそらくアートの批評記事を書いていたライターの蔵書だったのでは、と思い至る。メキシコオリンピックのヴィジュアル・アイデンティティーについて最も詳しく当時まとめられていたのが日本の「グラフィック デザイン」誌だったので、参考にしたのだろう。
後の方のページにはフォロン特集があり、そこにも切り抜きがたくさん挟まっている。私は学生の頃からフォロンの作品が大好きなので、思わぬ大盛りサービスがとてもうれしい。
さらにページを先に進むと「ロボットとコンピュートピア?」という特集が。1969年当時の人々が思い描いていたコンピューターの作るアートとデザインの世界観が、2024年の今あらためて見ると大変に面白い。ここにも切り抜きがわんさか。
最後に、価格を見てびっくりした。当時の大卒初任給って確か、34100円だったはず… 当時1500円の雑誌ってことは、今の感覚だと9600円ってことになる。超高級雑誌だな!おそらく、大学とか会社の部署に1冊買ってみんなで読んだ、みたいな位置づけだったんだろう。
ブリジット・ライリーの「あの」表紙だ!と思うが早いか引っ掴んでいた。この表紙をSNSで見かけてから、めちゃくちゃ欲しいと思っていた。
かっこいい…
で、これにも資料が挟まれていた。作品のプレス用写真である。これで編集部勤務のライターか編集者の蔵書っていう想像に確信が持ててきた。
気づいたら10冊近くも選んでいたので、最後に吟味して4冊までに減らした。
特にこのブリジット・ライリーの表紙は常に見えるところに置いて眺めたい。「グラフィック デザイン」は、本文を読むのが楽しみだな。