なんと1年以上ぶりだった、20区のブロカント。
1月下旬の寒い日で、あまりひとところにじっとしていたくない感じだった記憶。
軍ものディーラーGのところで、おもしろいワークウェアを見つけた。
生地の感じから、1980年代後半から1990年代前半あたりの品物と推測している。
このVTN Industriesについて検索したら、フランス軍のユニフォーム製造を請け負うメーカーのサイトがヒット。企業史の部分から一部を以下に抜粋すると、
1850年に紳士服の帽子製造や刺繍仕事を専門とするMarckという家族経営企業が創業した。
いっぽうで、1859年にPierre Balsanという人物がフランス中部Châteaurouxの王立毛織物工場を買収し、フランス軍の制服製造を手がけはじめる。
20世紀の初めから、Marck社は公務員全般、とくに軍隊の制服デザインと製造を請け負うようになる。
Balsan社は1914年からの第一次世界大戦で兵士に支給されたホライゾン・ブルーのウール制服をデザイン・製造。
(このブルーはフランスらしくて美しいし私も好きなのだけれど、敵国ドイツ軍は当時すでに迷彩色の制服を採用していて、フランス軍の兵士はこの鮮やかな色のせいですぐに見つかって銃撃されてしまったという気の毒な話… 士気を上げる美しい軍服こそが正義の感覚はナポレオン王政時代で終了していて、死期を遠ざける地味な色の軍服が必須になっていたんだと、遅ればせながら気づくフランス軍。この派手なブルーで戦勝はしたものの、戦死者数はおびただしい数に上った)。
第二次世界大戦後の1956年、Balsan社はVTN Industriesという名で、最新技術のテキスタイルを研究開発・製造する最先端のブランドを立ち上げる。VTNはVêtements des Temps Nouveauxの頭文字。
1956年から2012年まで、Marck社は軍服製造業に関わるさまざまな中小零細企業を買収し、Marckグループと相成る。
2012年にMarckグループはBalsan社と合併し、軍隊を含む国家公務員と私企業の制服全般を手掛ける大企業となる。
2018年にMarckグループ傘下のBalsan社はVTNブランドを吸収合併。2021年に社名がMarck & Balsanとなる。
…VTNというブランドは1956年から2017年まで存在していたということだ。
私が見つけたこのジャケットはとてもカッコいいのだけれど、不思議な点が色々ある。
ダブルブレストの合わせが異常に深いし、ボタンが裾ギリギリまで止められる仕様。
一般的には脚の動きやすさを優先して、裾から数センチはボタンをつけないものが多いはずのワークウェアで、である。ベントも一切ないので、かなりタイトで窮屈。
袖はタイトで短めでとても作業着らしい感じなのに、なぜだ。裾がヒラヒラするとよっぽど危険な作業用なのだろうか。
それと、このボタンの材質。触ってびっくり、ふにゃふにゃしてゴムっぽいのである。
なんで?ちょっと留めにくいよ?
最大の謎は、タグにあるこのイラスト。雪のイグルーとエスキモーっぽい服装の人物と、犬。
ゴムのボタンは寒冷地で割れないようにという対策なのかな… 寒いなら裾までボタンをきっちり止める理由もわかるけど。