バスティーユ近くにある趣味の良いヴィンテージ服店で、素敵なパンツを見つけた。
このお店は好きなんだけど、はす向かいに安くて庶民的なワインバーがある。観光客にも有名な店なので、日本人で行ったことのある人も多いと思う(私も15年以上前に1度だけ行ったような)。
このワインバーで完全に出来あがった千鳥足の酔っ払いが、週末の午後3時ごろにフラフラとやってきて冷やかしに片っ端から試着したりすることがあり、それだけが玉に瑕。
店主は穏やかな人なのであまり強い口調で注意したりもせず、とにかく平穏にさっさと出ていって欲しい気持ちで接客する羽目になる。気の毒である。
フランスには外で飲みすぎて酔っ払う人がいない(路上生活者以外)と思っていたのだけれど、いるところにはいたのだ。しかも昼間から。長く住んでいる私も、これにはびっくりした。まあ確かに路上で酔いつぶれて動けない状態の人とかはいないけど、酔っ払いは存在していた。
この日わたしが入店したときには、20代後半と思しき女性の先客が2人いて、明らかに酔っ払いだった。
1人はフラフラと試着したパンツを気に入ったようだけれど、値段が高いと言いはじめた。酔っ払いがくだを巻くってやつだ。
え、でもそれサンローランだし、見るからにめっちゃいいウール…っていうかカシミヤ混だよね、おそらく。特に傷んでいないかぎり、他の店だと2倍はするけどな、と思いながら聞いていた。
そりゃファストファッション価格ではないけど、庶民に手が出ないような値段じゃない、飲み代が数回分だ。そんなに酔っ払うほど飲むなら3回分くらいか。
店主は値下げには断固として応じない(とても丁寧に接客していて感心した)ので、結局うだうだ言いながら着替えてまた来ると言い残し、酒場に戻っていった。
さすが酔っ払い、店主は男性だし、私という他人もいたのに、試着室(狭いけど一応ある)の有無も聞かずにその場で脱いじゃった。
さて、パンツのシルエットを見てなかなかいいねと思っていたので、興味本位で私も着てみることにした。
ただし、1980年代のYSL rive gaucheのサイズ36は私にはまず入らない(だいたいいつも下は40)から、まあ入らないだろうなと思って着てみた… おや、ギリギリ履けちゃったよ?
かなり腰を落として履くデザインだったのか、アトリエでサイズ札を付けまちがえたのか、とにかく履けた。しかも、前の持ち主は私と同じ脚の長さの人だったようで、丈もちょうど!
こんなの買うしかないよね。さっきの女性がシラフで明日お店に戻ってきてももうないよ、ごめんね。
ハイウエストのワイドシルエットがカッコいい。スニーカーにも合うウールのパンツ。
ダークグレーとオリーブグリーンの霜降りで、拡大すると細かい迷彩柄みたいに見える凝った織地だ。
びっくりするほど軽いので、旅行に持っていくのにも良さげ。