最近よく通る道沿いに、小さなアンティーク店があるのは知っていた。
私が行く時にはタイミング悪く休店日なことが多いのと、開いていても店内が薄暗くて、少し入りづらい雰囲気である。
5月の末の水曜日。
楽しみにしていたポップアップストア(伝統的民族衣装の展示販売)の開催初日に意気込んで行ったものの、気にいるものがなくて何も買わずに出てきた。現金を用意していたのにちっとも使わないとはめずらしい、なんだか不完全燃焼な気分である。
気を取り直して、帰りに馴染みの手芸屋に寄り、仕事用の材料を買うことに。
例の気になるアンティーク店の前に差しかかり、今なら気後れせずに入店できるかも、となぜか思った。
洋服のラックを端から順に見せてもらい、店内を時計回りにゆっくり一巡して、最後にアクセサリーやスカーフが置かれたコーナーに着いた。
大きなカゴに無造作に入っているスカーフを取り出して広げると、なんとも好みの絵柄。うれしくなって1枚ずつ掘り起こして、ぜんぶ見た。
1950年代の少年用の三角スカーフ。コットン地に4色刷り。
当時の少年たちはこのカウボーイの男性みたいに、鼻から下を覆って西部劇ごっこに興じたのだろうか。「au Far-West」という、フランス語と英語が混じった文言がこれまたいい。
1950年代のレーヨン大判スカーフは、なんだかハワイアンシャツを思わせる色合いと図柄。
よくみるとスイスの国旗があるから、スイスのお土産スカーフかな… と思ったが、たとえばLindauはドイツの街で、Romanshornはスイスの街である。
あ、ドイツとスイスとオーストリアの国境に接するLac de Constance(コンスタンス湖。ドイツ語ではボーデン湖)周辺観光地が網羅されているのか!ということは、クルーズ船の旅行客用だったのかもしれない。
ところどころにハガキの消印の絵があしらわれていて、それが1952年(1949年のも1個だけ見つけた)。なので、1952年にデザインされたのではないかと思う。
もっとも気に入っている絵は、巨大な赤い魚(?)にまたがってワイルドな遊びを楽しむビキニ姿の女性。
この艶やかなスカーフは第一印象では1980年代のものだと思ったのだけれど、1940年代と聞いてびっくり。
店主の言葉を借りると、クリスチャン・ラクロワっぽい色づかいだ。
対角線で大胆に区切られたデザインで、抽象的水玉模様と、ピエロの立ち姿の2種類を楽しめる。
当時の持ち主は三角に折って頭に巻いたり、肩からかけたりしていたのだろう。
うんうん悩んで選びぬいて、さあ支払おうかと思ったら、まだ見ていないスカーフの引き出しがあるという。もうこの際ぜんぶ見ようではないか。
そしたらこれが出てきた。この日の4枚の中で最高に気に入っている、1940年代のレーヨンのスカーフ。
摩天楼と道路標識を道路から見上げたシャープなデザイン、脱帽のセンス!
周囲の女性たちの楽しげな表情もいい。アメリカ土産かなと思ったけれど、絵のタッチと色づかいがフランスっぽい気もするので、当時の女性たちの憧れの土地を図案にしたのかもしれない。
文字好きだしこれを買わないわけにはいかない、なんなら一番のお気に入りだ。
店主は物静かで優しく、スカーフの趣味がとても私好みなので、定期的に訪れたい店が1つ増えた。