たしか大阪の南港方面に家族で出かけた帰りに、古着のワゴンセールを見つけたんだったと思う。
家族の誰からともなくそのワゴンに寄って行き、それぞれに品物を見ていたような記憶。15歳で、アメカジな格好に憧れていた私は、デニムのジャケットを見つける。
当時はまだ、まともなデニムのパンツすら持っておらず、どういうブランドの何を買えばいいのかも全く知らなかった。でもなぜか、そのジャケットには心惹かれるものがあった。きれいな青色だと思った。しかも1000円だったので、お小遣いで買える。
古着というか、買ってから数度しか着用されなかったようなきれいさである。着方はよくわからないので、シャツの上に適当に羽織ったりしていた。
大学1回生の時。
同じクラスに、まるでフランス映画から出てきたような不思議な言動で周囲をたちまち煙に巻く、Hさんという女性がいた。
抜群にセンスも良いのだけれど、なんとなく何を話せばいいのかわからず、私とは接点はなかった。
ある日、数年前にワゴンセールでで買ったそのデニムのジャケットを着て大学に行くと、Hさんが私に話しかけてきた。
「これ、すごくいい。どこで買ったの。とてもいいと思う」
質問に答えながら、少し得意げな気分になった。なんとなく買ってなんとなく着ていたデニムを、Hさんに突然、褒められたのだ。これはもしかしたら、とてもオシャレなジャケットなのかもしれない。
以来、なんとなく特別な服に昇格したそのジャケットは、今でも大切に持っている。
当時はもう少し濃い藍色だったのが、だいぶ色落ちしている。
タグにはSakamoto Original Denimとあるので、広島県福山市で1892年創業の坂本デニムのものだろうか。
だとしたら、「当社は1967年(昭和42年)に国内で初めて芯白染色技術の開発に成功し、日本で初めて機械化を達成しました。これによって、国産デニムを可能にしたことが、今日の隆盛を築くきっかけになりました。」との説明が企業サイトにあるので、このジャケットは1960年代後半から1970年代の品物だった可能性もある。
いくつもヴィンテージのデニムを見てきたので今ではわかる、これは相当よい生地だ。Levi’s501の66後期あたりの製品と比べても、引けを取らない。何度も洗濯を繰り返した後でも柔らかくしなやかで、厚みも健在である。
これが人生で初めて買った、かつ最も長く持ち続けている古着だ。
ここ数年しまいっぱなしだったのだけれど、久しぶりにまた着ようかなと思う。