金ピカの橋の下のブロカントからメトロで移動して、パリ2区のBourse駅へ。
ここはいつも出店者が少ないので、ヴィンテージ服ディーラーLのスタンドは、すぐに見つかった。
華やかで目立つ2人組が、Lと親しげに談笑しつつ、アール・デコ時代のコートの試着などをしている。
ピガールの社交場を夜な夜な優雅に練り歩いていそうな、ゴージャスな髪型と着こなし。かなりゆっくりとした話し方、限りなくフォーマルな微笑み。
彼女らが歩いたあとには、良い香りの金粉が舞い落ちてきそうな…「夜の蝶」とは、このことか。
まだ日本に住んでいたころに強烈に心焦がれた、古い映画で見たパリジャンの姿そのままである。というか、この人たち、以前にテレビで見たことがあるような気が、しないでもない。
ラックにかかるヴィンテージ服をチェックしながら、どうしてもこの2人組が気になってしまう。失礼にならない程度に気をつけて、チラチラと遠くから見ていた。他人に見られることに慣れているというか、見られる快感を楽しんでいる様子なので、やはり有名人なのかもしれない。
男性の方はヒゲの造形が芸術的で、ステッキが異常に似合っている。
頭のてっぺんからつま先まで、まったく隙がない。目が離せない。
そうこうして、スタンドのラックを3周ほどした時に、やたらと手触りの良いスカートの存在に気づく。
ネップツイード生地の8枚ハギのスカート。
左前に何かが引っ掛かると思ったら、シャネルのロゴマークの金具だった。
黒いシルクとウールの混紡地に、ブルー系のナイロン糸の組み合わせ。
生地デザインの様子から、1980年代後半から1990年代のものかな、と見当(シャネルのコレクション変遷を詳しく追ってはいないので、あまり自信ないけど)。
ハンガーから外して体に当ててみると、かなり大きいサイズである。
でもこんな手触りの良い生地を触ってしまったら、もう離れられない。
ローライズで履けば大丈夫ではという楽観が勝ち、現金を下ろして購入した。
帰宅して試着してみたら、骨盤で引っかけて履くというよりも、今にもヒップからずり落ちそうなくらい大きい。これでは外出できない。
裏返すと、裏地の縫い方が異常に雑で、これはシャネルのアトリエの仕事ではないな、と気づく。前の持ち主が、縫い代をギリギリまで縮めて、サイズアップをしたようだ。
コンシールファスナーのついた、後ろ中央2枚の縫合部分だけは無傷であるものの、その他すべての縫い代が狭められて、合計で12cmほどサイズが大きくなっている。そりゃでっかいわ。
プロの修理人を探して頼もうかと思ったが、探して選んで予約するまでが大変そうなので、自分でやることにした。シャネルのスカートを分解する機会もそうそうないと思うし、どうせ自分の服なのだから、ゆっくり進めればいい。
結局4日間を費やし、12cmのサイズ詰め(=元のサイズに復帰)に成功した。
一番難しいのは、糸を解く作業だった。
黒地に黒糸での縫製なので、布を傷めないように慎重に、カッターの刃をごく軽く当てていく。
表地のツイードよりもさらに難儀したのが、裏地のシルク。
ちょっとでも刃が滑ると布まで切れてしまうのだが、ハサミの刃は入らないくらいの細かい縫い目(そろそろリッパーを買うべきだな)。
4月前半の寒い日に、1度だけ履いて外出できて、満足した。
また秋になったら履くのが楽しみだ。
2 Comments
自分で直されたんですね!
履いている写真を見せてほしいです!
衣替えで冬物を仕舞ったところなので、また秋に履いた時に撮ってみます!