ほぼ半年ごとにやって来る、パリ9区のブロカント。新年度(フランスは9月が年度開始)ブロカントの始まりは、だいたいいつもここからである。
いつもどおりメトロ2番線のAnvers駅で降り、小さな公園沿いの坂道を下る。
このAnvers駅は100年越しのアンティークなので、改札出口が1つしかない上に、通路がめちゃ狭い。水瓶の底のような薄暗い場所にサクレ=クール寺院目当ての観光客が常に大量に溜まっているものだから、地上に出られるまでの間に受けるストレスがすごい… が、絶対に気を抜いてはいけない、スリの格好の狩場なのだ。
出口もう1個作ればと思うけど、事情があって地下の工事は不可能なんだろうな。まあ、パリに住むというゲームのルールは、こういうことだと受け入れるしかない。
オルレアンからやって来るEのスタンド軒先のラックに、鮮やかな色のトップが吊られていた。好みすぎたので瞬時に近寄って手に取り、数秒後には鏡で見て、購入を決意。我ながらの決断スピードに惚れ惚れする。
Eによると、1980年代にこれを毎週末のように着て出かけ、ずっと大事に持っていた女性から譲り受けたとのこと。どこもほつれていないし、めっちゃ丁寧に扱われていたことが見ればわかる。
コウモリ袖で、斜めボタンとか脇のハトメとか二重の前身頃とか、もうすべてのでティールに心臓がキュンキュンする。それにこの配色!左右の袖で色ちがいだよ… なんてお金のかかる作り方。
コットンの質も素晴らしくて、これっておそらく有名ブランドのものだよねと思っていたら、Eも同じ考えだった。2人そろって「たぶんGuy Laroche」と見立て。襟のブランドタグは破損しているのだけれど、内側の素材表示タグに手がかりが。
やっぱり!1980年代当時の青文字タグ、これは見覚えがありすぎる。おまけに「綿」の文字。日本の商社が当時輸入していたブランドは限られてくる(Guy LarocheとかChristian AujardとかLouis FéraudとかTed Lapidusとか)ので、襟タグの横長な形と服のデザインの特徴から見るに、これはやっぱりGuy Larocheの可能性が大では??
共布のサッシュベルトも付いている。
そこでEが「実はこれセットアップで、パンツがあるんだよ」と言う。小さいサイズなのでセットでは売れなさそうと考え、バラ売りしているそうだ。メジャーで測ると、ギリギリ着られそうな微妙な数字… これは試着してみるか。
試着コーナーのゴザの下から雨水が染み出してきて靴下がびしょ濡れになったけれど、なんとか試着はできた。呼吸さえ諦めれば履けるわ、これ。なので上下セットアップで買うことにする。
さらに彼女のスタンドで、鮮やかなショッキングピンク色のパンツを見つけて狂喜!
彩度が高すぎて正しく写らない。最初のセットアップがもはや地味に思えてくるレベル。
おそらくこちらも1980年代初期あたりの品物。シルクなのに、なんでと思うような価格だったのでこれは(これも、だな)即決。Eが「良さをわかってくれる人がやっと見つかってうれしい」と言った、私が来るまでこの逸品に誰も関心を示さなかったということか。よしよし、うちにおいで。
寒くなりすぎないうちに、さっそくどちらも着た。
シルクのサルエルは肌触りが最高で、歩行中に恍惚としてくる。これぞ日常の贅沢品。