今回はめずらしく、ブロカントではない話。
同じような目にあった誰かの役に立つかもしれないし、ぜひ自分でも覚えておきたい、「こんなに大変だったんだよ気をつけろ!」と。
あれは忘れもしない2022年2月19日、土曜日の昼過ぎ。夫と2人で18区のブロカントに行くのに、メトロのマドレーヌ駅で14番線から12番線に乗り換えようとしていた。
まず、リヨン駅の14番線ホームがめちゃくちゃ混んでいてびっくり。
そうだ、この週末から学校が冬休みだから、家族連れで田舎に移動する人がたくさんいるんだ… もともと人混みは好きじゃないので、ホーム中ほどよりやや奥の空いているエリアに移動。メトロではなるべく人の少なそうな車両を選び、ドア端に立って他人との間隔も1m以上取れていたし、他人とは向き合わず。ここまではいたって普通だったし、よく覚えている。
14番線がマドレーヌ駅に停車して、降車ドアに乗客が集中する。足早にさっさと降りて、進行方向に10mほど先の、ホーム唯一の上りエスカレーター方面へ。ところがエスカレーターに乗って3秒ほどで、いきなり乱暴にエスカレーターが停止した。一瞬とまどったものの、周囲の人に合わせて冷静に徒歩で上り… 上りきる直前あたりで違和感に気づいた。私の荷物って、朝からこんなに軽かったか?なんか急に軽くなってない?
上り切ってすぐにバッグの中を確認する。ない!バッグインバッグとして使っている、黒い長方形の無印良品のポーチがない?!?!
心臓バクバク言わせながら、必死にさかのぼって考える。ポーチを丸ごと家に置いてきたってケースは… ないわ、リヨン駅の改札で定期券をかざしたから乗り換えができたわけで。
ホームに落ちているのかもと、すがるような思いで階段を駆け降りるが、何も見つからず。これは超やばい、まずはカードを止めなければ。早足で地上まで出て、すぐに銀行の緊急番号(夫がググってくれた。でもよく考えたらアプリにも書いてあるね)に電話する。まずはCrédit lyonnais銀行のカード。こっちは非接触支払いがオンになっているから、優先的に止めたい。
パリの観光エリアど真ん中のマドレーヌ駅付近は車の往来が激しく、銀行の担当者の声が聞き取りにくくて、何度も繰り返してもらった。トラブってテンパった人々の対応に慣れた流石のプロだったし、言ってることはわかるんだけど、自分が覚えまちがうのが恐ろしくてしょうがない。
約4日で送られてくる予定(週末を挟まなければ2日で届くんだろう)の新しいカードを認証するための8桁ほどのコードをメモ(私には電話の会話と同時に器用にメモ帳を起動する余裕はなく、夫に書いてもらう)し、それを24時間だか48時間以内(もうこのへん記憶がおぼろげだ。余裕があるなと思ったから、たぶん48時間?)に銀行口座の担当者宛にメールするようにとの指示。さらに新カードと新しい暗証番号通知郵便をそれぞれ待つ間、アプリ内に仮番号カードが時限つきで現れるので、それをネットショッピングでは使えると言われた。へえ。
さて次はBanque Postale銀行。こっちは非接触支払いオフなのでまだ安心とはいえ、少額決済ならばネットでの悪用は可能なので、さっさとやろう。あらためてアプリをよく見ると、盗難・紛失届がアプリ内で完結できるっぽい。何回かクリックして終了、すぐに確認メールも届く。電話じゃないから落ち着いて何度も読めたし、なにもメモする必要がないのはいいな。今までどちらかというとしょぼい銀行のイメージを持ってた、ごめんよ。
ちなみにこのBanque Postale銀行の場合、新しいカードで旧暗証番号を引き継ぐかどうかを選択する項目があった。明らかな自分の過失(太平洋の真ん中に落とした、とか)とか破損(犬が齧った、とか)の場合は、暗証番号を変えたくない人もいるのだろうね。
銀行カードは2枚とも止められたので、急いで家に帰る。盗られたポーチに自宅の鍵も入ってたんだよ、住所氏名が詳細に書かれた顔写真入りの滞在許可証(10年滞在有効のIDカード)と共に… あ、メトロの定期券Navigoも盗られたから手元にない!電車に乗れないやん!
マドレーヌ駅の窓口の女性に、「この駅構内で10分ほど前にスリに遭って、Navigoカードも盗られたのだけど、どうすれば盗られたカードのサービスを止められますか?」と言うと、「止める… というか、再発行すれば古い方は自動的に無効になりますね」と。そっか!再発行という手が!
氏名と生年月日を紙に書いてと言われ、それで私のアカウントを見つけて再発行してくれた。再発行料の8€はとりあえず夫に払ってもらう。だって私おサイフないし。これ、もし1人で出かけている時だったらと思うと恐ろしいね、家に帰る電車に乗れず、鍵がないから家に入れず(合鍵を管理人が持っていてくれてるけど、週末は彼は休みなのだ)。
電車を降りたら2人でほぼ無言で小走りで帰宅。
幸い1時間の間に空き巣に遭った様子もなく、ホッとした。私はすぐに着替えて(スリに遭った服を着つづけるのは気分が良くない)、家にあった予備の合鍵を持ち、被害届を出すために最寄りの警察署へ向かう。夫はその間にアパートの管理会社に連絡して、ドアの施錠シリンダーの付け替えの見積もりを取ることに。
警察署までは徒歩15分ほど。Googleでは年中無休って書いてあるけど、半信半疑。
玄関に着くも、開いているようには見えない。やっぱり。あらかじめ調べてあった電話番号にかけて出た受付の女性に事情を話すと、「あーマダム、それは緊急事態ではないから、月曜の朝に来てください。いま調書を取る担当者が1人しかいないのに案件が多すぎて手が回りません」と。き、緊急ではないのか… まあID盗られて困ってるけど、通り魔に刺されてダラダラ出血している最中ってわけじゃないし、そうだね。緊急じゃないって言われて少し気が楽になったかも(違)。
帰宅途中にあるショッピングモールにたしか、合鍵屋があったはず。家のドアの鍵には予備があるけど、建物全体の入り口用のプラスチック非接触バッジキーはないのだ(越してきた当時、実際に住む人数分しかくれなかった)。とりあえずいくらかかるのか聞いてみよう。
「コピー元のバッジキーの実物を見ないとなんとも言えないけど、コピーできるタイプなら25€です」と。「じゃあ30分後に持って来るので見てください!」と言い残して早足で帰宅。夫に現金をもらって(これ1人暮らしだったら多少は現金をどっかに隠して持っていた方がいいね、カードがないとほんとに何にもできない)、バッジキーも借りて、合鍵店を再訪した。
さっき来たときより混んでいる。なんでだ。
店の入口の外で並んで待っていると、私の再訪に気づいた店主が、手招きをした。「コピーできるやつだといいんですけど」と言いながらバッジキーを渡す。
店主は右奥の機械の上に載せてしばらく様子を見て、手でOKの印を作って教えてくれた。コピーできるタイプだったということだ(建物の管理会社によってはコピー不可能仕様になっていることがある)。
なに色のプラスチックにしますかと言われ、4-5色ある中から選ぶことになった。まさかこんなところで選択肢を提示されるとは、心の準備ができていなかった。
万が一これでうまくドアが開かない時には戻ってくればいいですかと訊くと、絶対に大丈夫と保証された。そして、ちゃんと開きました。元々持っていたものよりも薄くて軽いから、こっちの方が好きかも。
帰宅して、こんどはインターネットにかじりつき。
滞在許可証を盗まれたらどうするのか(以前は電話なり、県庁まで直接行って受付で訊けたのだけれど、コロナのせいで色々手続き方法が変わっているはず)。保険証や運転免許証の再発行手続き。とにかく最重要のものから順番に調べていく。必要書類が何か正確に分かっていれば、それをくださいと警察署で言えるし。
ひととおり調べ終え、何かしていた方が気が紛れて精神に良いと思い、クロシェ型キーケースをうちにある余りレザーで縫ったりした。物を作ると無心になれていいね。食欲まったくないので夕飯は食べず。
翌日の日曜日は、盗まれた品目を箇条書きにする作業に入る。たくさんあるので、見せればそれを書き写すだけという状態になっていれば、警察の人も仕事が早いだろう。
警察署に行くのは月曜日の朝なのだ、時間はあるので準備を念入りに行える。
日時、場所、何を盗られたか(黒いMUJIのポーチ)をまず書き、その下に内容物をリストアップ。全ての書類のコピー(重要書類はもらってすぐにスキャンしているので、そのデータをプリント)を用意し、番号や発行日や有効期限なども明記。
自分で書いてて滅入ったね、多いわ。めっちゃうまいプロのスリ(素人の若いスリ2人組とかはわりと遠くから見つけるし避けられるんだけど、ほんっとに気配消すタイプのプロの仕業で脱帽)だった、まったく何も感じなかったのだ…
- 10年滞在許可証(しかも去年更新したばかりのやつ 涙)
- 鍵(自宅ドア、プラスチックバッジキー、郵便受けの鍵)
- お財布(50ユーロ札1枚、20ユーロ札3枚、10ユーロ札2枚、小銭5ユーロ。そう、珍しく現金を多めに持っていた日だった、くやしい!)
- カードケース(銀行カード2枚、保険カード、運転免許証、Navigo定期券、共済保険カード、病院の診察カード、ルーヴル美術館の年間会員カード、フランス芸術家協会の会員カード、画材屋Rougier & Pléの割引会員カード、薬局の会員カード、洋服修理の半券)
ちょっと長くなるので、月曜日に警察署に行く場面からは、次回へつづく。